
図中xとyの角度を求めよ、某有名私立高校の入試問題です。
ネットの記事に掲載される度、頭の体操代わりについトライして
しまいます。ちなみに2枚の絵から違いを探し出すクイズも、
認知症予防になるそうで、見つけると好んで解いています。
*https://hokkaimath.jp/blog-entry-286.htmlより引用
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鳩時計はhttp://techbase.biz/Repair4/CuckooClock2.htm
など、これまでも何台か修理してきました。2018年12月に
修理したhttp://techbase.biz/Repair3/CuckooClock.htm
では、鳩(カッコウ)の鳴き声を出すホイッスルに空気を送り
込む鞴(ふいご)の蛇腹が破れ、貼り合わせて修繕しました。
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今回もまた鳴き声が出ない鳩時計です。鞴と一体に
なった高低2個のホイッスル部を取り出します。
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鞴の蓋部分が開閉して
蛇腹を伸縮させる構造です。
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その蛇腹が完全に破れています。
蓋部分は分離・脱落した状態です。
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特殊な紙(多分ハトロン紙)で
精巧に折り紙されて作られています。
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しかし、ここまで完全に破れていると、もはや修繕のしようが
ありません。今回は折り紙の構造を解明して、同じ蛇腹を
新しく製作することにします。そのため、蛇腹各部の寸法を
正確に測ることにします。長辺の長さ、54mmほどです。
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手前短辺の長さは
37mmあります。
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蓋の片側が持ち上がり、鞴が開いた
時の開口部の高さを割り出します。
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破れて分離してしまった双方の長さを
測り、足し合わせることで高さを求めます。
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蛇腹の構造をスケッチすると、鞴が
開いた状態でこんな感じになります。
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測定した寸法をスケッチに反映させ、
CAD上で正確な展開図を作ります。
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作業しやすいように拡大して印刷し
丁寧に切り抜いて型紙にします。
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1段だけの蛇腹なのでどうってことありません。
折り線に沿って千枚通しで軽くなぞっておきます。
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元の蛇腹を参考にしながら、山折り~
谷折りと楽しく折り紙していきます。
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ん?、何故か両側面が後方に折れてくれません・・。
説明の余地もなく、この展開図が完全に間違っている
ことに気付きます。正面の縦線は垂直ではだめです。
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ならば、垂直ではなく内側に倒れ込んで
いれば良いのでは。慌てて修正します。
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CAD上でデータを修正し、プリンタが
型紙を印刷してくれるので作業は楽です。
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折り線に傷を入れておくと、簡単かつ
正確に折り曲げることができます。
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山折り・谷折りを繰り返し、今度は
側面が後方を向いてくれそうです。
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1段の蛇腹が綺麗に出来ています。
折り紙もなかなか楽しいものです。
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が、蛇腹が閉じて平面になると、なんだ
これ・・? 頭にでも付ける飾りかよ。
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縦線を倒れ込ませ過ぎたようです。気持ち
程度、垂直方向に戻して印刷し直します。
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折り紙が楽しいのでいいんですけど、この
あたりで成功させてしまいたいものです。
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左端から右端まで水平に伸びる折り線は
途中で谷折りから山折りに変化します。
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交差する縦方向と斜め方向の折り線も、山折りと
谷折りに分かれることで蛇腹の形を構成します。
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今度はそれっぽく出来たようです。紙製
なので大体で良いように思いますが。
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折り畳んで平面にした状態で、正面部と側面部が
作る角度を確認します。本来は90度になるはず
ですが、スコヤに当ててみると少し開いています。
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ここまで目検討で調整してきている
ので、微妙に合わなくて当然です。
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何か法則があるはずです。側面部の斜辺と正面の
縦線が垂直なのでは・・、早速データを修正します。
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楽しかったはずの折り紙に、疲れて
きました。谷折り~山折りを経て、
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今度は内側に来てしまいます。斜辺と
垂直にすれば良いわけでもありません。
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いい加減目検討や当てずっぽうを止めて、
真面目に幾何学的に求めることにします。
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CAD上に描いた展開図です。
まず、上下に2分割します。
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上半分か下半分のどちらかで考えれば
良いので、片方を消しておきます。
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型紙を折って畳んだ状態を描きます。
正面部と側面部が垂直関係になります。
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正面の対角線が成す角度を求めます。と言いましても、
CAD上で寸法のメニューから角度を表示させるだけ
です。39.04度(≒39度)であることが分かります。
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折り畳んでいた側面部を
いったん元に戻します。
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先ほどの対角線と側面部斜辺が成す角度を求めると
125.57度となり、縦線により角aと角bに分割されます。
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再び折り畳んだ状態にします。合わせて125.57度となる
角aと角bについて、角aは角bの中に含まれた状態です。
ここで知りたいのは角a(または角b)の正確な角度です。
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ここで、 a+b=125.57 ・・・①
また、 39.04+(b-a)=90 ・・・②
①式から、 b=125.57-a ・・・③
③式を②式に代入すると、
39.04+(125.57-aーa)=90
39.04+125.57-90=2a
a=37.305≒37
b=125.75-37.305=≒88.445≒88
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真面目に考えるとこのようになります。正面縦線の
角度は37度、斜辺からは88度でなければならない
ことが分かります。まるで冒頭の私立高校入試問題
のようですが、少なくとも私にとっては役に立つ話です。
当てずっぽうで90度だなどと嘘を言ってはいけません。
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本当に75度で合っているのか、
型紙を作って確かめてみます。
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何度も繰り返してきた折り紙、
最後にしたいものです。
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折り畳んで平面にしてみると、
何となく正確に出来ているような・・
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スコヤを当ててみると、
見事に直角です。
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試作検証を終えて蛇腹製作の本番に入ります。
ハトロン紙の代わりになるものを探します。
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これはアクリル板の表面保護に使用されていた薄い
シート紙です。片面が樹脂コーティングされています。
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薄く気密性に富む点でハトロン紙に近いと思います。
紙の固さや強度はやや劣るかも知れません。
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実寸のサイズで型を印刷します。
高低の鳴き声用に2枚必要です。
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スケールを正確に当てて
慎重にカットします。
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鞴本体に貼り付けて固定するため、
5mm幅の糊代を付けています。
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切り抜きを終え、折り線に
沿って軽くけがきます。
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山折り~谷折りを進めます。
なかなかシャンとした紙です。
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蛇腹部分の構成は、無理せず
だましだまし折り曲げます。
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紙が薄いので蛇腹のみでは
簡単に形が崩れてしまいます。
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折り線にスケールを当て
糊代部を折り返します。
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折り紙の完成です。実寸サイズでの
加工なので細かな作業になります。
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蛇腹2組の完成です、ここまで長い道のりでした。鞴として
ホイッスルに十分な風を送り込むことが出来るでしょうか。
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鞴に残っている破れた蛇腹を
取り除かなければなりません。
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綺麗に剥がし取るために
40℃くらいで湯煎します。
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念のためひと晩
浸け置きにします。
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ハトロン紙はなかなか丈夫で
自然に剥がれてなど来ません。
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それどころか鞴に接着されていた
糊代部に接着剤が残ったままです。
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止むを得ず固着した接着剤を
リュータで削り落とします。
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完成している蛇腹を仮組みして
みます。寸法はぴったりのようです。
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樹脂部品に紙を貼り付ける
適当な接着剤が分かりません。
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安直ですが、ゴム系のボンドを使用します。
伸び、乾燥時間など適切とは言えませんが。
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ドライバーの先を使って、薄く
伸ばしながら塗り付けます。
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手前側の短辺と両側面の
長辺に接着剤を塗ります。
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紙相手に接着力が強過ぎるので
慎重かつ一発勝負で位置を決めます。
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手前短辺→両サイド長辺の順で
糊代面を押さえ付け固定します。
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何とか形になってきました。
左右の高低とも貼り付けます。
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上に載る蓋部分を当ててみます。
やはり寸法はぴったりです。
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後方の短辺は鞴の回転軸に
なるので、ヒンジを当てます。
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マスキングテープを
適当にカットします。
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後方の短辺、鞴の上下を連結
するようにテープを貼り付けます。
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耐久性に不安はありますが、2重・3重貼りに
して蛇腹の動作を重くするわけにも行きません。
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上下の位置を合わせた状態で
蛇腹の糊代を周囲に接着します。
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もう片方も同じように
貼り付け接着します。
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左右とも蛇腹の貼り付け、鞴の組み立てを
終えます。全体の納まりを確認します。
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試しに鞴を軽く開け閉めしてみます。「ポッポー(カッコー?)」の
発声が蘇ります。心持ち、キレというか甲高さが足りないような
気がしますが、古くから親しまれてきた鳩時計の鳴き声です。
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ホイッスル部をムーブメント本体に
戻し、周辺部品を取り付けます。
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ムーブメントから出る鞴を駆動用の
アームを取り付けなければなりません。
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鞴の脇にアームが連結
する突起が出ています。
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アームの先を突起の穴に通し、
根元側をムーブメントの軸に掛けます。
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高低2つの鞴それぞれに
アームを取り付けます。
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修理作業完了です。鳩(カッコウ)が
元気よく飛び出して軽快に鳴きます。
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実は、ムーブメント側の鞴駆動軸が固着していたり、鳩の駆動
リンクが変形していたりして、各部に渡り修理を施しています。
時針も折れ曲がり汚れて変色していたので、同色でペイントし
直しています。先にも書きましたが、中学高校入試に出題される
図形問題を解く知識は、私にとってはこのように大いに仕事の
役に立つ有用なものです。しかし、これから入試に挑む小学生や
中学生にしてみると、いったい何を期待し、如何に納得しながら
このような学力を身につけるべく努力をすれば良いのでしょう。
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